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僕の名前はガク。

アメリカ、カリフォルニアにある大学で学生をしている。

僕は上智大学の編入試験を受けるために、

試験日の前日に成田到着予定の大韓航空に乗っていた。

これからの48時間は、僕にとって今までで最も長い48時間となる。

 

事件はリアルタイムで起こっている。

 

成田到着まで残り4時間程だろうか・・・。

以前大韓航空で食べた機内食のビビンバが忘れられず、

今回も迷わず大韓航空を選んでしまった。

今回のビビンバは前回ほどの感動が沸いてこない。

むしろ美味いとはあまり思えないモノだった。

これならJALに乗ってマイレージを貯めればよかった。

値段も殆ど一緒だったし。

 

いよいよこの日がやってきた。

明日筆記試験を受け、明後日面接だ。

これまでの約1ヶ月、頑張って勉強したのだから大丈夫だろう。

自信をもっていけばうまくいくさ。

 

アメリカから予約した麹町のホテルに着いた。

上智まで歩いていける範囲の一番近いホテルを選んだ。

成田からホテルまでは完璧に調べてあったので

迷わずホテルに着く事ができた。

 

アメリカにいると美容院に行くのがつい億劫になる。

以前髪を切ったのはいつだろうか。

パーマも伸びてしまいどうしようもない髪型だ。

アメリカから予約した麹町にある美容院に行く。

「とりあえずパーマの部分が無くなるくらいに短くして、

自然な黒色に髪を染めてください。」

いくら自然な黒っていっても、染めたのまるわかりだ。

その後僕は、明日のためにその足で学校に向かう。

行きかたも調べてありバッチリだ。

正門から学校に入る。

構内にはサークルやクラブから帰る学生がいる。

ここが上智大学か。

まさか自分がここの試験を受けることになるなんて。

上智を実際に見て、俄然やる気をだした僕は

明日からの2日間死ぬ気で頑張るぞと誓う。

ホテルへの帰り道、松屋を見付けて牛丼を食らう。

こんなときはカツ丼でも食べたかったがしょうがない。

ホテルに戻ったが勉強する気も起きない。

4畳ほどの狭いこのホテルでただテレビを見て過ごした。

いつも飛行機では寝られない僕は今回も殆ど寝られなかった。

それと時差ぼけが加わり、疲労感はするが眠くない。

明日の事を思うと緊張してくる。

でも頑張って寝よう。

 

時計が午前0時を指した。

とうとうこの日がやってきた。

試験に備えてすぐにでも寝たいが全く寝られない。

今日は筆記試験だけなので少しは気楽だ。

次の日の面接はどうなるんだろう。

そのためにスーツももってきたし準備はOKだ。

冴えた目と軽い疲労感の中、

久しぶりに見る日本のテレビを見続ける。

深夜だけあって面白いものはやってない。

しきりに僕の親指はリモコンのチャンネルボタンを押す。

 

窓から見える空はどちらに向いているのだろうか。

少しずつ明るくなってきた。

寝よう寝ようと努力するが寝られない。

 

テレビから蝶ネクタイの男が芸能ニュースを伝え始めた頃、

僕は寝る事を諦める。

そして、重い身体を起こし近くのコンビニへ行く。

朝ごはんと上等な栄養ドリンクを買う。

今日はとても大事な日だ。

今日くらい僕の身体にハイオク燃料を与えてやろう。

今日の試験は昼に終わる予定だからそれまで耐えてくれ。

そうしたら思う存分寝ようじゃないか。

 

栄養ドリンクの効果もあってか、

何時間も寝ていないにもかかわらず、

僕はやる気に満ちて上智の門をくぐった。

空は快晴、11月後半の冬の匂いの混ざった

北風が僕の火照った体に当たる。

試験会場に入る。

そこには編入試験を受ける人と一緒に

推薦入試を受けようとする高校生もたくさん居た。

僕は決められた席につき、周りを見回す。

もし試験に合格したら一緒に勉強する人がいるのか・・・。

しかし今はそんな事関係ない。

 

暫くすると60才前後の白人の男が黒板に何やら書こうとしている。

この人ここの教授だろうか。

もちろん英語で書くのかと思ったら、驚いた事に

この人は普通に漢字を使い日本語で書き出した。

今日の試験の時間割のようだ。

英文和訳、リスニング、小論文の時間がそれぞれ書き出される。

その後、その男は黒板に「面接 1:30-」と書いた。

 

その瞬間、僕の体中の水分が一瞬で沸騰し、

それが汗となり体中から流れ出るのを感じた。

頭は真っ白、喉はカラカラだ。

なんと今日、面接もあるというのだ!

聞いてないぞ。

今日は面接のために持ってきたスーツを着ていない!

いや、そんな事どうでもいい。

今夜やろうとしていたので、準備が全くできていない!

こんな状態じゃなにも話す事ができないよ。

慌てて僕は何かを求めるように、受験票の試験予定を見た。

とてもわかりにくいのだが、よく見ると面接は同日になっていた。

きっと周りの人にも焦っている人がいるだろう。

僕はなんてミスをしてしまったんだ。

ずっと前からこの日のために準備をして、

高いお金をはらってはるばるアメリカからやってきたのに、

こんな事があっていいのだろうか!

成り立たない証明問題を解くように僕は自分を整理させる。

刻々と迫る試験開始時間は無言で僕に「あきらめろ」と言う。

馬鹿野郎!あきらめるもんか!やれるだけやってやろう!

 

試験が始る。

落ち着こうと思っても落ち着かない。

ただ、今目の前にあるテストはなんとかできる。

勉強をした甲斐があったようだ。

しかし今の僕はまるで、

終着駅の無い線路の上を残り少ない燃料で

ひたすら全速力で走るミッドナイトエキスプレスのようだ。

 

とりあえず午前の試験が終わった。

周りでは昼食の準備をしたりノートを見直したりしている。

僕は昼食はおろか、面接のためのノートもない。

あるのは紙と筆記用具だけだ。

僅かな昼休み時間を使い面接に備える。

しかし何も頭に入ってこない。

入ってくるのは緊張だけだ。

 

面接のため、何人かに別れて面接室に向かう。

僕はこのグループで最後のようだ。

最後なんて余計緊張してくるじゃないか!

その時、僕の中に過去のある思い出が浮かんできた。

 

高校2年生のとき、岐阜県がお金を出してくれて

1年間留学できるという制度の試験を受けた。

1次試験の筆記には、3人の募集枠を求め

県下から約45人の高校生が来ていた。

それなにり英語に自信のあった僕は、

当然のように2次試験に進んだ10人の中に入った。

その勢いで余裕しゃきしゃきの僕は後日、面接に望んだ。

ろくに準備もせず、気分は半分既に留学していた僕は、

突然「面接」という現実に戻された。

僕は焦点が合わなくなり、ずーっと奥に点になって

前が見えるだけで、周りは真っ暗にしか見えなかった。

頭の中がぐるぐるしだし、今にもぶっ倒れそうだった。

当然僕は不合格。

この苦い思い出がそのとき浮かんできた。

 

僕は決心した。

準備ができていなくても、目の前にその「瞬間」はある。

今、ここで緊張してなにもできなかったら、

これまでの努力とお金をドブに捨てるようなものだ。

このチャンス、やってやろうじゃないか!

栄養ドリンクよ、もう少し俺に力を与えてくれ。

 

(ノックノック)「失礼します。」

初めは日本語、その後英語での面接だ。

僕はこの瞬間を軽い気持ちで待っていたわけではない。

僕には考える事があり、やりたい事があった。

僕は自分の考えを尽きるまで話した。

終了した。

 

一気に身体にこみ上げる疲労感と達成感。

結果の心配なんかする余裕などない。

フラフラの足でホテルに向かう。

その途中、コンビニで酒と食料を買う。

帰りの飛行機を一日早めて明日アメリカに帰ろう。

それまで腹いっぱい食べて寝よう。

 

ホテルに戻ると、先ず大韓航空に電話をして変更をする。

その後、眠たいのと疲労感の中、飲む、食べる。

明日の飛行機は午後2時だ。

8時ごろ起きて、結局使わなかったスーツを実家に送ろう。

そして、ゆっくり東京見物をしながら成田に向かおう。

 

僕は何時に、何をしながら、どんな格好かわからないうちに

深い眠りに入っていった。

 

「プルルル、プルルル。」

電話の音で目が覚める。

実家から、今日はどうだった?

どうだったも何もないよ。

僕は夢か現実かもわからない気分にも関わらず、

今日の出来事を吐き出すように受話器にぶつける。

ゲロも吐き出しそうな気分でもあった。

完全に眼が覚めてしまった。

昨夜と同じ不安が頭をよぎる。

寝られるだろうか。

しかし、全ては終わったんだ。

何も残っていない。寝れないはずが無い。

 

しかし、また寝れなくなってしまった。

テレビからは相変わらず、深夜のくだらない番組が流れてくる。

こんな奴いまどきいないよ、と思えるくらいの

金髪の長髪で、筋肉ムキムキの白人の男が

腹筋を鍛える器具について延々と話している。

助手だろうか、これまた今時ない程の厚化粧の女が

男に合わせてわざとらしく驚いた顔をしている。

そして時々写る観客のおばさんたち。

これを撮るために何回笑い、驚く練習をしたのだろう。

そのキンキンした笑い声は疲れの取れきっていない

僕の脳みそをしきりに刺激した。

その時僕がアカデミー賞の審査員だったら、

迷わずこの番組を推していただろう。

史上最悪演技賞になぁぁっ!!

 

最悪な精神状態のまま、僕は日の出を迎えた。

あぁ、今日帰るんだな。

試験に受かっていればいいのだが・・・。

そう思った直後、僕は再びまさに睡魔という

悪魔に襲われるように体の力が抜け、記憶が消えていった。

 

「プルルル、プルルル。」

どこかで聞いた事のある音だ。

12時間前の出来事を夢の中で繰り返すように

僕は受話器を取った。

「お客様、チェックアウトの時間が過ぎているのですが・・・。」

真冬の重い雪に埋もれた何年も乗っていない車の

エンジンをかけてその瞬間全速力で走り出す車のように

僕はベッドから飛び起き、時計を見る。

12:20

やばい!飛行機に間に合わない!

帰る準備など全くしてなかった僕は何も考えず、

ただ眼に写るもの全てをカバンに詰め込む。

歯を磨く時間も、顔を洗う時間でさえもない。

電話のベルが鳴って5分後にはチェックアウトをしていたと思う。

二日前、ここに来た道を真逆にたどり空港へ向かう。

 

どうやらなんとかギリギリ飛行機は間に合いそうだ。

この二日間、今までに味わった事のない程の

疲れと眠気と焦りを体験した。

長かったのか、短かったのか何もわからない。

さぁ、また寝られないであろう飛行機の旅に備えよう。

 

 

終わり。

 

 

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